上顎の抜歯即時インプラント症例

上顎の抜歯即時インプラントの症例解説

上顎における抜歯即時インプラント治療の注意点や特徴をDr.新谷悟が解説します。

診断時において
  • 感染巣を確実に制御できるか(できない場合にはインプラント体が感染するリスクを負うことになる)
  • 唇側、頬側の骨が薄くてもよいから存在するのか、しないのか、その高さとインプラント体とのギャップの大きさ
  • 抜歯即時で初期固定は十分得られるか
  • 審美領域である前歯部などにおいては特にその深度、角度などを考慮し、経年的にインプラント体の一部などが露出するなどのことがないように十分注意して設計するなどを確認する
手術時において
  • 愛護的な抜歯を行い、唇側、頬側の骨をできるだけ温存する
  • 感染巣の完全な除去を徹底する
  • 抜歯窩の骨に誘導されてインプラントのドリリング、埋入の方向がずれないようにガイドの固定を普段以上に気を付ける

こういった点を留意したい。

目次
上顎の抜歯即時インプラント症例
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症例ケース10 (2018.08.20 - Data up)

伝えたいポイント

  • どうして抜歯即時を選択したのか
  • 的心ドリルと的心ガイドの有用性
  • セメントリテインかスクリューリテインか
  • 骨、歯肉の変化予測と対応
左側上顎中切歯(#21)の歯根破折 抜歯同時埋入症例
(20歳代 女性)
STEP.01

左側中切歯の歯牙破折で、他院で保存ができないと言われ。インプラント治療を希望して当クリニックを受診した。

右側の中切歯は失活歯で、根管治療後コアなどもなくレジン充填が行われていた。

左側中切歯はメタルコアとレジン前装冠での修復がなされていた。

明らかなフィステルはなかったが、唇側の骨が吸収していることが予想された。

STEP.02

X線像では、破折線(↓)は骨縁下まで及んでおり、保存不可能と診断した。周囲の骨の残存状態や感染の有無を考慮し、唇側の歯冠側には骨が存在するも歯根部分には根尖病変があり骨が欠損していると思われた。

●抜歯後、待機埋入を行うと歯冠側の骨があまりないため、唇側が大幅に吸収し、それに伴って、歯肉の陥凹も生じ、それからンp骨造成では患者さんの負担が大きいと判断した。

●的心ドリルでは、ドリルによって自家骨が採取されるため、CTでの抜歯窩とインプラント窩のギャップは自家骨である程度補填できると考えて、抜歯即時を選択した。

患者さんは、インプラントの術後約5か月でインプラント補綴により前歯が戻ってきたと喜んでいただけました。

STEP.03

LANDmarker(iCAT)の画像。理想的な歯冠形態を作成し合成後、インプラントの埋入位置を検討した。

●のちに示す骨形態などから、このような場合にはスクリューリテインにこだわらず、セメントリテインを選択すればよい。そのことの弊害は少なく、余剰セメントの除去を完全に行うことが大切である。

●抜歯即時インプラントでは残存骨の形態から、唇側にドリルが流れやすいために、口蓋側に向けてドリリングを行うという勘どころを示す書籍もあるが、ガイドサージェリーではそのような勘所なしで予定された位置に埋入される。

STEP.04

LANDmarker(iCAT)による埋入部位のCT画像。パノラマ像で診た破折線がよりはっきりと分かる。根尖部の病変により唇側骨がないことも見受けられる。

隣接する天然歯が近く狭いスペースになるため、サージカルガイドを利用することでより確実に計画した位置に埋入ができる。

●埋入するインプラントの先端ではしっかりとインプラント体が保持されるため唇側に骨を添加することで、予後の期待できる予知性の高いインプラント治療ができると判断した。

STEP.05

左側中切歯の抜歯時の所見。

唇側の骨を温存することが最重要で、できるだけ愛護的な抜歯を心掛ける。時間はかかっても決して乱暴な抜歯を行ってはならない。

根尖部に病変があり、抜歯窩の唇側の骨がないことがわかっている。歯冠側にある歯槽骨を決して壊さないことが重要である。

STEP.06

抜歯窩の根尖病巣(炎症巣)の除去。唇側の粘膜に骨はなく鋭匙の先が粘膜から透けて見えている(左図)。

この部分の不良肉芽組織を十分に掻把することが重要になる。時間がかかっても丁寧に行いたい操作である(右図)。

鋭匙は周囲にギザギザのある、鋭匙を好んで用いている。粘膜を指で押さえて、ゆっくりと擦ぐ様に肉芽組織を除去していく。

STEP.07

FINESIA Bone Level Tapered type 直径3.7mm/長さ14mm(京セラ)を埋入する計画を立てた。

Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を適合させ, ファーストドリルでドリリングを行っている所見である。

STEP.08

Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を用い、セカンド、サードドリルで、インプラント窩の形成を行っている。

ガイドに沿わせてドリルを挿入することで、位置、方向が制御される。

この時に、変な抵抗や音がすることがあればガイドに対してドリルがやや誤った方向で進行している可能性であるので、その場合に無理に挿入しないようにする。

STEP.09

Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を用い、所定の深さまでドリリングする、的心のドリルには切削された骨が付着してくるので、自家骨としてこれらの骨を使用する。

●的心ドリルの場合に写真で確認できる以上の多くの骨が採取できる。そのため、ゴールデンスタンダードの自家骨移植が選択できるという利点がある。

STEP.10

Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を用い、インプラント埋入窩形成後、インプラントの埋入を行う。

インプラントタイプ及びサイズ:FINESIA Bone Level Tapered type 直径3.7mm/長さ14mm(京セラ)。

抜歯窩への埋入ではあるが、インプラント体がガイドに誘導されながら適切な位置・方向で埋入される。

STEP.11

インプラントの埋入後の口腔内所見。

抜歯窩にインプラント体が埋入されているのが観察できる。

既存骨とのギャップに骨を填入するがその際、インプラント体内部のネジ穴に骨が入り込まないように、カバースクリューを装着する。

インプラント体と抜歯窩の残存歯槽骨との間にギャップが観察される。

STEP.12

既存骨とインプラント体の周囲のギャップに、ドリリングで得られた自家骨を填入する。

自家骨がドリリング時に比較的多く採取できるのも的心ドリルの特徴であると考える。

STEP.13

カバースクリューを外して、ヒーリングアバットメントに交換する。

ヒーリングアバットメントの周囲にも自家骨を置き、より骨ができるように配慮する。

人工骨を混合して使用したり、ヒーリングアバットメントの周囲に、テルプラグやスポンゼルなどを少量置くこともある。その後縫合することで、自家骨、人工骨が溢出しないようにして縫合する。

STEP.14

印象採得時と最終補綴物装着時確認Dental X-P。

予定された部位に埋入されている。臨在歯との距離の関係も含めて、この位置しかない位置に埋入されている。フリーハンドでは絶対に正確な埋入はできない。

STEP.15

最終補綴物装着時の口腔内所見。

思い切り噛めるとおっしゃられていました。見た目もかなり改善して、笑顔に自信が持てるようになったとのことでした。

症例ケース09 (2017.12.08 - Data up)
左側上顎乳犬歯、乳臼歯の残存 動揺 抜歯同時埋入症例
(20歳代 女性)
STEP.01

左側上顎の側切歯が欠損しており、乳犬歯ならびに乳小臼歯が残存していたが、動揺が生じてきたため、インプラント治療も含め、相談に来院された患者さんです。

周囲の骨の残存状態や感染がないこと、残存するであろう骨の幅や高さなどを考慮し、抜歯同時埋入と判断した。

患者さんは、インプラントの術後4か月、側切歯などの欠損に伴う歯冠の隙間を神経を取らずに審美的に修復するラミネートべニアによる歯冠補綴も同時に行い、見た目も改善して非常に喜ばれていました。

STEP.02

左側晩期残存の乳歯抜歯時の所見。感染巣などは、基本的には存在しないが、肉芽組織などの除去は丁寧に行う。

STEP.03

LANDmarker(iCAT)の画像。それぞれ補綴主導を考え埋入位置を計画。

STEP.04

埋入部位のCT画像。CT値(参考値)を確認すると、非常に柔らかい骨と想像されたため、バイコルチカルな支持を得られるようインプラントの長さを選択した。

STEP.05

埋入部位のCT画像。骨の形態と補綴位置を考慮し埋入位置を計画。

STEP.06

左側上顎犬歯部(#23)にはFINESIA HA Tapered type(京セラ)直径3.4mm/長さ12mm、第1小臼歯部(#24)には 直径3.4mm/長さ8mmを埋入する計画を立てた。

Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を適合させ,直径3.4mm用の的心パイロットドリル(京セラ)でドリリングを行っている所見である。

STEP.07

インプラント埋入窩形成後、インプラントの埋入を行っている時の所見。

インプラントタイプ及びサイズ:FINESIA HA Tapered type 直径3.4mm/長さ12mm(京セラ)

インプラント体がガイドに誘導されながら適切な位置・方向で埋入される。ストッパーが装着され深さも適正になるように設定されている。

STEP.08

インプラントの埋入後、ヒーリングキャップを装着し、ドリリングによって得られた自家骨を、インプラントの上部ならびにヒーリングキャップの周りに填入して、縫合する。これによって骨ができるのを期待しているわけではないが、自家骨でインプラント周囲がより守られ、思った以上の骨ができてくれれば予知性にも寄与するのではないかと考え行うことが多い。

抜歯即時インプラント埋入術
手術内容:左側上顎犬歯(#23)ならびに第1小臼歯部(#24) 乳歯抜歯
埋入インプラント:FINESIA HA Tapered type 直径3.4mm/長さ 12mm(#23)、 直径3.4mm/長さ 8mm(#24)
埋入トルク:10N/cm (#23,#24)
麻酔:笑気ガス鎮静・モニター下
局所麻酔:2%キシロカイン(1/80,000Epi) 5.2ml
手術時間:28分
STEP.09

埋入後、パノラマX-Pにて状況の確認を行った。予定された部位に埋入されている。臨在歯との距離の関係も含めて、適切である。上顎洞までの距離に関してもきちんと予定された位置に埋入されている。フリーハンドや簡易的なガイドでは絶対に正確な埋入はできない。

STEP.10

印象採得時と最終補綴物装着時確認Dental ならびにパノラマX-P所見

STEP.11

担当技工所の中田デンタル・センターのコメント

最終補綴物装着物の模型上での写真と口腔内装着時の所見

初診時に前歯部の隙間や形態の大きな改善が必要であった為、診断用ワックスアップを正確に行い先生と相談、確認しながら行ったケース。

特に左の1番の近心と右上二番の近心のマージン部においては、歯頚ラインをそろえる為に、立ち上がりを歯肉を若干圧排しながら形態を付与する必要があったので1ミリ縁下形成をし製作した。

今回のケースは双方の密なコミュニケーションと連携があったからこその成功症例だといえる。

STEP.12

最終補綴物装着時の口腔内所見

以前より気になっていた前歯補綴処置(神経を取らない、温存するラミネートべニアによる審美補綴)も同時に行ったことで、見た目も大きく改善され、ご家族ともども本当に喜んでいただけた。乳歯ではやはり、怖くて思い切り噛むことができないと、食事の時も遠慮がちだったものが非常によく噛めて満足していただけた。

症例ケース02 (2017.10.11 - Data up)
上顎右側の前から2番目の歯が歯根破折となり、抜歯即時によるインプラント治療の症例
(30歳代 男性)
STEP.01

唇側の歯槽骨を温存させることに注意して抜歯を行う。抜歯後の唇側の骨保存が非常に重要である。

STEP.02

LANDmaker ver6.55 (iCAT) での解析。3DCTと模型の融合画面上でのアクセスホールの位置確認。既存歯牙の基底結節を意識して計画した。

STEP.03

CT診断画像。抜歯即時になるため、初期固定を考え皮質骨の位置を意識した埋入位置とした。またL14mmのインプラントを選択した。唇側の骨についてはCTでは薄いため確認はできないが、破折部位の状況から温存されている可能性は高いと診断した。

STEP.04

天然歯との距離:遠心1.7m・近心1.5mmでそれぞれ1.5mm以上確保できていることを確認。患者さんは、インプラント治療前には膿が出て、疲れると腫れるなどして嫌な思いをされていましたが、術後には見た目もよくなり、前歯でなんでも噛めると喜んでおられました。

STEP.05

マルチガイド (iCAT) ではメモリを確認しながら深さを決定することになり、メモリをよく見て確認しながら慎重にドリリングを行うことになる。また、iCATマルチドリルではストッパーも用意されており、部位によって見えづらい場合はストッパー使用するとよりストレスなくドリリングができる。

STEP.06

インプラント埋入窩が形成できれば、インプラントの埋入を行う。FINESIAの埋入であるがストッパーがついており適切な深さでの埋入が可能になる。この時点では、インプラント体の長さから、最終的な深度調整は、骨の状態を見ながらガイドを外してから行った。インプラント体の埋入時にはインプラント体がガイドに誘導されながら適切な位置・方向で埋入されているのがわかる。

STEP.07

一定の深さまで埋入し、ガイドを外したところである。深度に関しては抜歯窩の状態を見ながら決定する。残存骨の触診と深度調整が重要となる。唇側の骨とのギャップならびに骨を造成する目的もあり人工骨を添加する。

STEP.08

骨補填材が、インプラント埋入窩から、こぼれ出ないように縫合する歯肉部の若干の陥凹に関しては患者さんとお話しして同意を得ている。そのための結合組織移植などは一部の歯科医師のエゴといえるかもしれない。

STEP.09

左画像:埋入後、パノラマX-Pにて状況の確認を行った。予定された部位に埋入されている。
右画像:最終補綴物装着時の確認Dental X-P

手術時間:18分
手術内容:抜歯術・抜歯後インプラント埋入術
麻酔:笑気鎮静・モニター下、局所麻酔
STEP.10

最終補綴物装着時の口腔内所見

歯根破折により止むを得ず抜歯となったが、隣の歯を削ってブリッジにするという治療よりも、保存することができずに抜歯になった歯の代わりにインプラントを行い、審美性を確保し機能回復をすることを選択しました。
術後は審美面・機能面も回復できました。ブリッジによる治療は健全な歯を削らないといけないことから、安易に選択すべきではない治療ではないかと考えます。
清掃性やずっとその歯が持つのか否かという予知性を考えるとインプラント治療という選択になるのではないでしょうか。

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