ソケットリフトにて骨造成した症例

ソケットリフト症例解説

骨不足で骨造成したソケットリフト症例におけるインプラント治療の注意点や特徴をDr.新谷悟が解説します。

診断時において
  • 明記しておきたいのは、すべての症例で一回法によるインプラント埋入同時手術が可能であるということである。さらに、4mm以上の骨があればサイナスリフトではなくソケットリフトを選択する。この十数年で骨造成の予知性から適応も変化している。
  • CTならびに理想的な埋入位置から骨の高径や幅など残存骨の形態、骨質などを十分に把握する。最も重要なのはインプラント体を埋入する部分の上顎洞底の形態が平たんであるかに注意する。インプラント体の埋入で近遠心的、あるいは頬舌的に高低差がある場合にはドリリングによりインプラント埋入窩を形成する際にシュナイダー膜を損傷するリスクが高くなることを鑑み、診断する必要がある。
  • サイナスリフトと同じで幅のある症例では、より直径の大きいインプラントを選択するが、万が一、ロスとした時にリカバ-できるように、最大径より1サイズ小さめのものを選択することも考慮する。
手術時において
  • サイナスリフトに比較して取り組みやすいからと言って安易に行ってはならない。必ず熟練した外科医の指導下で10例以上行ってから行う。また、術後の上顎洞炎やリカバリ-が出来ないものは行うべきではない。
  • ドリリング、水圧による粘膜の挙上、骨の填入のすべてにおいて、シュナイダー膜に対して愛護的な操作を心掛ける。
  • 私の術式のように粘膜切開、粘膜骨膜弁を作成しない場合には、特に、歯肉から上顎洞底までの距離を測定し、適切なドリリングを選択して慎重に行う。
  • 上顎洞に穿孔させる時には、手指の感覚が重要である。ただ、その感覚がわかりにくいこともあるので、シュナイダー膜までの距離や器具を使っての確認などを行いながら慎重に行う。この際にシュナイダ-膜を損傷する確率が高い。
  • 粘膜挙上後、インプラントのドリリングで損傷しない様にスポンジ状の人工骨などで粘膜を上方に固定する工夫も大切である。

こういった点を留意したい。下記にわかりやすく補足資料を提示いたします。

補足資料.01
補足資料.02
目次
骨不足で骨造成したソケットリフト症例
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症例ケース02 (2017.11.09 - Data up)
左側上顎第1大臼歯(#26) 歯牙破折症例
(40歳代 女性)
STEP.01

左側上顎第1大臼歯の痛みを主訴に当クリニックを受診された。歯牙が近遠心的に破折しており、歯ぎしりによる歯牙破折が疑われた。左側上顎第1大臼歯を抜歯、その後2か月待ってソケットリフト併用でインプラントの埋入手術をさせていただき、患者さんは、抜歯後6か月でインプラント補綴により咀嚼機能の回復ができた。

STEP.02

LANDmarker(iCAT)にてシミュレーションを実施。ワックスアップを取り込み、将来の上部構造の位置を確認して埋入位置を計画。

STEP.03

左側第1大臼歯(#26)のCT画像。φ4.7mm、L12mmのインプラントを計画。ソケットリフトを行うため、骨補填のシミュレーションも実施した。

STEP.04

iCATから送られてくるドリルプロトコル。

STEP.05

Landmark Guide 的心ガイド(iCAT)を口腔内に適合させた所見。適合はもちろん、インプラント埋入部位の粘膜が固有歯肉内に収まるかどうかを確認することが大切である。

STEP.06

サーキュレーションメス(京セラ)を用いてインプラント埋入部位の歯肉を丸く切開し、歯槽提粘膜の切除。出血は骨面より若干あるくらいである。

STEP.07

FINESIA HA Tapered type 直径4.7mm/長さ12mm(京セラ)をソケットリフトを伴う骨造成し、埋入する計画を立てた。

的心ガイドドリル 直径3.7mm用(京セラ)に進度調整用のストッパー(↓)を装着し、上顎洞底の直前までドリリングを行う。

STEP.08

上顎洞に穿孔させるために、上顎洞への骨造成ソケットリフト用のCASKIT(オステム)を用いて先行させる。先端のドリルの形状が特殊なために骨のみが切削され、上顎洞の粘膜は傷つきにくい。ストッパーも1mmごとに用意されており、使い方を厳密に注意して行えば洞粘膜の損傷はない。

ソケットリフト用のCASKIT(オステム)の従来のプロトコールでは粘膜骨膜弁を作成して骨面で行うが、私は、歯肉を切開せずに行うフラップレスで行う。そのため歯肉から洞底までの距離をシミュレーション上で計測し、注意してドリリングを行う。ストッパーの役目も重要になってくる。

STEP.09

ソケットリフト用のCASKIT(オステム)によるドリリング。ストッパーの長さが変わっているのがわかる。洞への穿孔がわかりにくい症例もあるため、専用の探触子で触診で確かめながら骨の穿孔を確認する。

STEP.10

上顎洞底の骨を穿孔し、インプラント形成窩の先が粘膜のみになっていることを確認したら、生理食塩水を1mlのシリンジに入れて、水圧による洞粘膜の挙上を行う。ゆっくりと洞粘膜のバックプレッシャーを感じながら圧をかけることが重要である。

粘膜に破れがなければ、シリンジを引くことで血液が逆流してくるが、もし、破綻しておれば、空気が返ってくることになる。洞粘膜の損傷はないことを確認すれば、人工骨を洞粘膜と洞底部に補填することになる。

STEP.11

洞粘膜の損傷がないことを確認後、アローボーンβ 250μm~1000μm(ブレーンベース)とアパセラム-AX(京セラ)を混合して、人工骨とし洞粘膜と洞底部に補填する。補填する骨に関しては、2種類の人工骨の混合やコラーゲン・HA複合体であるリフィット(京セラ)などを使用することがある。

STEP.12

人工骨であるアローボーンとアパセラム-AXを混合したものをインプラント形成窩に充填した所見。

その後、ソケット専用にプラガーにて,ところてんを作るがごとく骨を上顎洞に補填していく。

STEP.13

ソケット専用にプラガーにて人工骨を上顎洞に補填していっている所見。上顎洞粘膜を人工骨で損傷しないように愛護的に骨を送り込む。

STEP.14

再度、的心ガイド(iCAT)を装着し、インプラントをガイドに沿うような形で埋入いく。この時の深度もサージカルガイドによって規定される。

インプラントがガイドに沿いながら、埋入されている所見。

STEP.15

インプラント体が埋入されたときの所見。埋入トルクは20N/cmであった。

STEP.16

ヒーリングアバットメント装着し手術終了時の所見。

手術内容:#26 インプラント埋入術
ソケットリフトによる上顎洞への骨造成を伴う
埋入トルク:20N/cm (#26)
麻酔:笑気ガス・モニター下
局所麻酔:2%キシロカイン(1/80,000Epi) 3.6ml
手術時間:13分
STEP.17

埋入後、パノラマX-Pにて状況の確認を行った。インプラントは予定された部位に埋入され、上顎洞が挙上されているのがわかる。

STEP.18

最終補綴物装着時の確認Dental X-P。

STEP.19

最終補綴物装着時の口腔内所見

ソケットリフト症例ではあるが、直径4.7mmと十分な太さで咬合に関しても全く問題ないと考える。

STEP.20

最終補綴物装着時の口腔内所見

東洋人は上顎洞が発達していることから、サイナスリフトやソケットリフトを必要とする患者さんは、多い。サイナスリフトは経験豊富な治療医に託すということが、インプラント治療を行う一般歯科医師にとって、ある程度コンセンサスが得られているが、ソケットリフトはできるのではないかと自ら手術にチャレンジする歯科医も多い。しかし、粘膜が損傷した時のリカバリーや上顎洞炎になったときに責任が取れない、治療できないのであれば行うべきではないことを明記したい。術後は良く噛めて機能的にも十分に回復でき、患者さん自身も非常に喜ばれていました。

症例ケース01 (2017.10.25 - Data up)
右側上顎第1大臼歯(#16) 歯根破折と根尖性歯周炎に対しての抜歯、待機埋入、ソケットリフト症例
(30歳代 女性)
STEP.01

他院で歯牙破折と根尖性歯周炎を指摘され、抜歯、ブリッジを提案された。ブリッジは、生活歯である臨在歯を削るので嫌だということで、当クリニックに来院した。

抜歯して、場合により骨造成が必要であることをお話しした。抜歯後2か月でインプラント埋入手術を行い、4か月後に上部構造(歯の部分)が装着され、患者さんは抜歯後約6か月でインプラント補綴により咀嚼機能の回復ができ、喜んで頂けた。

STEP.02

抜歯後2か月。iCAT LANDmarkerにて補綴の位置を中心に考えながら、幼弱な骨もあると診て、既存骨のある位置を選択(高さ約7.7mm)。

近遠心で診ると洞底はフラットなため比較的容易な症例である。洞底に高低差があるような場合については別の症例で示したいと思う。

STEP.03

iCAT LANDmarkerにてワックスアップを取り込み、上部構造の位置を確認しながら埋入シミュレーションを実施。既存骨の位置と補綴の位置と考慮し良好なポジションを選択。
ワックスアップが表示されない状態ではトップダウンのイメージができず、最良の診断が難しい。

STEP.04

iCAT LANDmarker 的心用ガイドを装着している所見。固有粘膜がサーキュレーションメスで切り取る歯肉の周囲にあることも確認する。抜歯後2ヵ月で、粘膜に完全に覆われているのがわかる。

STEP.05

FINSIA HA Bone level Tapered 直径4.7mm/長さ12mmを計画。サーキュレーションメスについては、インプラント周囲の固有歯肉の幅の確保と止血効果も考慮し直径3.7mm用のものを使用している。

サーキュレーションメスがガイドに沿って挿入されているのがわかる。正確な粘膜切開が可能になる。

STEP.06

サーキュレーションメスで固有粘膜切開し、歯肉除去後の口腔内所見。サーキュレーションメスによって歯肉が切り取られ、骨面が観察できる。

STEP.07

iCAT LANDmarker的心用ガイドにガイドキーを挿入し、直径3.7mmのパイロットドリル(ショート)にてインプラント埋入窩を形成している。

直径3.7mmのパイロットドリル(ミディアム)にてインプラント埋入窩を形成している。ストッパーが装着されており。正確に上顎洞底まで0.5mmのところまで形成する。

ストッパーのところまできっちりとドリリングすることで、上顎洞底まで0.5mmのところまで正確に形成することができる。

STEP.08

サージカルガイドを一旦外し、CAS-KITを使用。CAS-KITの特長として、シュナイダー膜を傷つけることなく上顎洞底骨を形成出来るように先端の刃が工夫されている。CAS-KITを使用する際に注意する点としては、上顎洞底骨が形成された時の感覚に頼るのではなく、辺縁歯肉から上顎洞底までの距離を術前に計測し、ドリルの長さを調整する事である。その為、CAS-KITドリルのストッパーは1mm単位で用意されている。

ドリルに装着するストッパーで1mm単位の深度調整をしていく。

STEP.09

骨を貫通する感覚が大切であるがわかりにくいこともあり、骨の穿孔を確認しながら行う。確認時にシュナイダー膜を損傷することもあるので優分に注意して行う。

CAS-KITでは、上顎洞底骨形成後、水圧によってシュナイダー膜を挙上する。1mlのシリンジに生理食塩水を入れ、専用のチューブを用いゆっくりと圧をかけていく。

STEP.10

1mlのシリンジのピストンを引いた時の口腔内。血液が返ってきている事を確認することで、水圧でシュナイダー膜が挙上されている事が分かる。シュナイダー膜に穴が開いた時は、空気が返ってくる。

STEP.11

採取された自家骨と人工骨アパセラム-AX(京セラ)を混合して、ソケットリフトに用いる。

STEP.12

ボーンキャリアにて自家骨と人工骨を混合した骨をインプラント埋入窩の入り口に運ぶ。
骨填入時の口腔内(咬合面)。インプラント埋入窩に填入した骨を下から器具を用いて上顎洞内へ押し出すイメージである。

STEP.13

オステオトームを用い、上顎洞底と挙上したシュナイダー膜のスペースへ自家骨と人工骨を混合したものを填入している。

最初と最後には、スポンジ状のコラーゲン・HA複合体骨補填材・リフィット(京セラ)を填入する。骨補填という目的だけではなくインプラント埋入窩に残っている骨補填材を挙上スペースへ押し出していくという目的もある。また、骨とインプラントの接触面を骨補填材に邪魔されないようリフィット填入後に洗浄している。

STEP.14

ソケットリフトによるシュナイダー膜の挙上をサージカルガイドを再度、装着してインプラントを埋入する。(FINSIA HA Bone level Tapered 埋入サイズは直径4.7mm、長さ12mm)
サージカルガイドのガイドに沿って埋入されているのがわかる。

STEP.15

インプラント体埋入時の口腔内所見。埋入されたインプラント体が確認できる。

STEP.16

ヒーリングアバットメント装着時の口腔内。(咬合面)出血がないことがわかる。

STEP.17

インプラント埋入後のパノラマX-P画像。
上顎洞内に挙上したシュナイダー膜と骨が観察される。

STEP.18

上部構造(歯の部分)を装着した際の確認デンタルX-P所見

STEP.19

最終補綴物装着時の口腔内所見

スクリューリテインの補綴としている。第1大臼歯は、咀嚼機能の要でもあり、その機能回復は重要である。ソケットリフトはサイナスリフトに比較して簡単な骨挙上法であるが、十分な経験が必要であり、未経験者が見よう見まねで行う手技ではないことを明記したい。

STEP.20

最終補綴物装着時の口腔内所見

抜歯後、比較的短期間でインプラントによる補綴ができ、歯が戻ってきたようでよく噛めますとおっしゃっていただけました。ソケットリフトの手術も全く分からなかったというか違和感などなかったので、良かったとお話しされていました。

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